本年度のBEATでは、特にニッポンの親子を元気にする「学習テクノロジー」、「教育のあり方」を中心に研究を行ってきました。今回は、それらの研究成果をみなさんによくご理解いただくために、研究成果報告会を開催いたしました。
家庭教育メルマガ最高の読者数を誇る「親力で決まる子供の将来」を主催し、『「親力」で決まる!』『「プロ親」になる!』などの著書を上梓なさっている親野智可等さんをお招きし、BEAT客員助教授・堀田龍也氏との対談を組みました。
親野智可等さん http://www.oyaryoku.jp/
「親子」に早くから着目し、子どもの学ぶ力を豊かに育てるための保護者とのコミュニケーションの大切さを伝え続けている親野さんと、子どもが新しいメディアとの安全な付き合い方を学び、健全な人間関係を自ら作っていくための力を育てる研究を進めている堀田客員助教授が、新しいメディアが拡げる親子のコミュニケーションの可能性について熱く語りました。
1.1. 「親力」についての考え方
堀田
最近は、新聞や雑誌などでも親の存在について注目しています。これらのメディアでは受験に合格することに主眼をおいているように見えますが、内容を読んでみると、親のあり方について書かれているものが多いですね。
親野
これらの記事には賛同するところがあります。
堀田
勉強をどうやるかといったテクニック以前に、それに取り組むための精神構造が必要である。その精神構造を育むのはまさに親であるといえますね。
親野
私はたまに、「当たり前力」という言葉を使いますが、当たり前のことをできる力をつけるのは家庭、はっきり言うと親と言えますね。
堀田
今は格差社会などといわれています。以前から学力に差はあったのですが、近年は格差といっても下の方が重くなってきていると言われています。この現象には親力はどのように関わっていると考えられますか?
親野
たいていの親御さんは真剣に取り組んでいらっしゃいますが、主に経済的な理由があって、家計を稼ぐために子どもの面倒を見られないといったことがあります。しかし、家計は安定していても、しつけなどの面で親が全く機能していない家庭があるのも事実です。
堀田
上とか下という言い方はあまり良くないのかもしれませんが、今日は便宜上使います。今問題となっているのは上を伸ばすことについてですか、それとも下を底上げすることについてですか?
親野
学習がうまくいかない子どもを、社会がどのように底上げしていくかが課題だと考えます。どのような家庭でも子どもがいるわけで、そのような子どもたちが将来どうなるのかが気がかりです。
堀田
私も小学校の教員の経験があります。毎年30人ほどの生徒を見ていると親の愛情のかけ方に差があるのを実感していました。しかし、親がたくさん愛情を注いだからといって、それがうまく機能するとは限らない例も見られた気がします。
親野
そうですね。親が愛情をかけたからといってもベクトルが違う場合があります。
1.2. 家庭・学校の現実
堀田
学校での学力と家庭での愛情は、大変関係が深いわけです。そこで、次は家庭・学校の現実についてお話しいただきたいと思います。今の家庭では差が広がっていて、特に下の方が問題になっていて、底上げが必要であるということですが、昔から今までで何が変わったのでしょうか?
親野
私も色々考えてきたのですが、40年くらい前から大きく変わったと考えます。人類が誕生した時と、今から40年前の間には、家庭には一つの大きな目的がありました。たとえば農家なら農業が中心的な役割を果たし、農家で育つ中で子どもは後継者として親から必然的に様々なことを学びます。そのようななかで、子どもは親を敬っていました。武士や商人でも一緒で、世襲制の中で親は子どもの良いモデルでした。40年前から、親は会社に行き子供は学校に行くということが始まり、親子生活はせいぜい食べて寝る、一緒にテレビを見るといった消費生活中心になりました。
堀田
40年前に大きなターニングポイントがあったことは理解しました。しかし、私は丁度40年ほど前に小学生でしたが、昨今の状況はそのころともまた違うように感じます。一体何があったのでしょうか?
親野
それは、テクノロジーの変化の影響が大きいと思います。新しいテクノロジーの変化に親は対応しきれないのに、子どもはどんどん対応している。そこで、敬意が逆転してしまっているところがあります。そのような状況で、親が子どもにどう言ったらよいかわからなくなってきています。
堀田
今は、少し前では倒産するなんて考えられなかったような会社がつぶれたり、少し前の常識が通用しないことが多いです。テクノロジーに関しても一緒で、少し前のモデルが通用しないことが多いですね。そのような状況全体が子供に見えればまだ良いのですが、子どもには親の背中が見えにくくなっているように感じます。私は研究者ですが、子どもから見ればコンピュータを使った仕事をしているお父さんに見えていると思います。しかし、出版社に努めている人の子供から見ても、父親はコンピュータを使った仕事をしているお父さんにしか見えてないのです。八百屋さんやパイロットといったわかりやすい職業のお父さんは少数派で、多くのお父さんの職業は複雑化して不鮮明になっています。
親野
多くのお父さんは自分の仕事を子供に説明しにくくなっていると思います。私はNHKの「プロジェクトX」という番組が好きなのですが、たまに80日間研究室にこもって何かの開発をしていた、といった話が出てきて凄いな、と思ったりします。しかし、その一方でその子どもはどうなっていたのだろうかという疑問もわいてきます。お父さんががんばっている姿がその子どもに伝わっていれば、とても良い教育なのですが、そうでなかったら成果が出たとしても家庭がボロボロだったという可能性もあります。
堀田
父親の姿が見えにくくなったこともあるのですが、最近では男女同権の流れに伴い、共働きの家庭が増えています。この影響も大きいと考えられます。親自身が教育を受けてきたときと、教育をしなくてはならない今とでは、状況が全く違うためにモデルが存在せず、ふらついてしまう。そこが露呈することによる子どもへの影響が考えられますね。
親野
昔は親と同じことをしていれば良かったのですが、今はそうもいきませんね。
堀田
次は学校についてお話を頂きたいのですが、今と昔では学校の状況は変わってきましたか?
親野
学校の変化で一番私自身が感じるのは、学校に求めることが増えてきていることです。家庭ではできないこと以外は全部学校で、ということになってしまっています。しかし、学校にも限界があります。人員的な問題、時間的な問題がある上に、先ほどお話ししたように家庭環境も変わって、先生も対応しきれない状態になっています。今は1人の先生に対して生徒が最大40人です。今までは学校は教育の場といったように、このごろずっと分業制できましたが、親の力の重要性が見直されつつあります。もっともっと家庭の教育力を高める必要性があります。40年前以前の教育の良いところを取り入れる必要もあると考えます。
堀田
これは有り体に言うと、学校の教育力が落ちてきていると言われたりもします。マスコミでは先生の質の低下を訴えたりもします。戦時中は1クラス70人でも問題なく教育が行われてきたのに、今は30人でも手に負えていない、という論調は、職業が過去と比べて専門化・細分化された、さらに仕事が深化・横断化されて多忙化した今にあてはめるのは筋違いですよね。戦時中はしつけなどは家庭で行われ、学校に求められているものが画一的で明確でしたが、今は多様です。学校に求められていても、本来は家庭ですべき教育というのはどのようなものだと考えられますか?
親野
基本的生活習慣が考えられます。たとえば歯磨きといったものです。私は学校で給食の後に歯磨きをさせて、歯磨き後に一人ずつチェックしています。歯垢が赤が染まるテスターを使わせると、ちゃんと磨けていない子供が多い。これは、給食後の歯磨きだけがちゃんとできていないのではなく、朝食後、寝る前の歯磨きもしていないと考えられます。私は給食後にしつこくさせた結果、寝る前や朝も磨かないと気持ちが悪い、といった子どもが増えてきました。このようなことは学校でやるべきことではないと思うのですが、それもできていないのです。
堀田
教員以外の人には歯磨きのようなことは本来、家庭で教育すべきことなので家庭でやってください、と親に言えばよいのではないか、と思われるかもしれませんね。
親野
できる家庭は良いのですが、それでできない子をどうするか、ということに最高のエネルギーをかけています。歯磨きだけでなく算数でも何でもそうです。
堀田
教育行政に関わる人たちは、高度な教育を受けてきたために、そのような現実が見えていないまま教育に関する様々なことを決定している可能性はありますね。そこは学校の現場がもっと伝えていくべきことだと思います。親が学校に責任転嫁することも突っぱねていく強さが必要だと思います。
親野
私もそれについてよく考えます。しかし、これは家庭でしょ、と言っても通じない家庭があるのです。典型的な例が週休二日制を導入したときに、学校は宿題を減らすことにしました。しかし、多くの子どもはこの二日間に何もしないのです。結局、親がやらないなら教師がやる必要があると考え、今は宿題を出す方向に戻ってきています。
堀田
結局、親がやらないことを教師がしなくてはならない、ということで教師が多忙化するしわ寄せが子どもに来ることになるんですね。これも価値が多様化してきたために、サービスをまかなう大変さが増長されているといえますね。
親野
その通りですね。
1.3. メディア社会と子どもたち
堀田
このように家庭が変わっている中、さらにメディアが変化しているんですよね。親野先生はたとえば、携帯電話などがもたらす親子関係の変化についてどのようにお考えでしょうか。
親野
メディアといっても色々な種類がありますよね。テレビと漫画は戦後に出てきて多大なる影響を与えてきました。これらは遊びや家庭でのコミュニケーションの時間を奪ってきました。テレビを親子で見て、それについて語る時間は本当のコミュニケーションにはならないと思います。後に何も残らないのです。子どもが学校の、親が職場の話をする機会がないのです。その点、携帯電話やパソコンには期待をするところもあります。
堀田
一方的なメディアであるテレビや漫画とは違って、コミュニケーションのメディアである携帯電話やパソコンには新たな可能性があると言うことですね。
親野
そうですね。戦後出てきたメディアの多くは一方的でしたが、携帯電話やパソコンはそれらとは質が違います。これらを有効に用いて、家庭内のコミュニケーションを深める研究は重要です。
堀田
携帯電話やパソコンでのコミュニケーションは、一見するとメディアに向かっているようにも見えるが実際には人に向かっているのです。よって、それを実感するには基礎的な人対人のコミュニケーション能力があることが前提になります。そうなると、親力によって家庭でやる必要がある教育が、メディア社会でも必要になると考えられます。メディアの陰の部分はたくさんあるのですが、もちろん光の部分もあります。親野先生のメールマガジンはどれくらいのペースで発行されているんですか?
親野
週に1回です。
堀田
読者数は?
親野
3万人強です。
堀田
相当な数ですね。もしメールマガジンというメディアがなかったら先生のお考えも多くの人には伝わらなかったですね。
親野
たしかに、一介の小学校の教師がこのような場にいることは不可能だったかもしれません。メールマガジンに書くような話は懇談会や学級通信でもできる話です。しかし、そこに参加してくれる親御さんは全体の半分程度で、しかもしっかり教育をしている人ばかりが出席してくれます。本当に聞いて欲しい人には聞いてもらえないのです。しかし、メールマガジンは効果的に、しかも無料で、教室内外問わず多くの人に考えを伝えられるメディアであると感心しています。
堀田
コミュニケーションのメディアは、これまでの良い家庭環境のつながりの復活以上に、新しい教育のつながりをつなぐツールになると言えますね。世の中は既にメディア社会になっていて親も子どももその渦中にいます。今回はそのメディアを使ってどのような親子のつながりを実現できるかの意見交換が主な目的でした。親と子の関係が疎遠になったところに、コミュニケーションのメディアが現れて、それらは親と子の関係に新たなものを実現できるチャンスなのかなと考えています。
親野
メディアを活用した例として一つすぐに思い浮かぶものがあります。小学校3年生の児童が、年齢制限上、児童クラブに入れないので仕方なく誰もいない家に帰宅するのですが、そこには携帯電話が置いてあるのです。そしてお母さんは子供が帰宅する30分前にメールを一通送ります。今日はお母さんは何をしたか、○○ちゃんは今日はどうだった?といった内容を送るのです。家を出る間際ではなく、ほんの30分前に送られたものだという実感が大切なんです。もっと発展したものを考えますと、たとえば、職場でがんばっているお父さんの姿を携帯電話で見られるようにするといったことが考えられます。また、家庭の共同の目的が無くなってきていると先ほど述べましたが、たとえば、我が家はスローライフを実践する家庭にする、キャンプを楽しむ家庭である、音楽をたしなむ家庭であるということを宣言して、そのライフスタイルをWEBサイトやブログで発信するといったことは、メディアを使いながら家族が一つの共同体になる方法の一つであると考えられます。
堀田
今のような話は、家族内だけでなく、家族同士もつながっていくというような、昔で言う地域のつながりのようなものも実現できるかもしれませんね。今回は親野先生にメディアの活用を中心にとてもためになるお話をお伺いできました。今日は本当にありがとうございました。
親野
ありがとうございました。
BEAT 2005年度研究成果報告会
「ザ・親子」:ニッポンの親子を元気にする親子の学びの形が変わります!
午後1時より午後5時まで
理学部1号館内
- 1. 趣旨説明
BEATフェロー
東京大学助教授 山内 祐平 - 2. 基調講演(対談)
「子ども・家庭・学校でのメディア教育を考える」
小学校教諭
『「親力」で決まる!』著者 親野 智可等
BEAT客員助教授
「メディアとのつきあい方学習」著者 堀田 龍也 - 3. 「おやこdeサイエンス」、そのインパクト
BEATフェロー
東京大学講師 中原 淳
BEATアソシエイツ
宮崎大学助教授 山口 悦司
BEATアソシエイツ
メディア教育開発センター助手 西森 年寿
BEATアソシエイツ
神戸大学助手 望月 俊男 - 4. 「Kids K-tai」プロジェクト報告
BEAT客員助教授
メディア教育開発センター助教授 堀田 龍也
BEAT Seminar Report
2009年度のBEAT Seminar Report
- 第3回:モバイルARが拓くPlace Based Learningの世界
2009年12月5日 - 第2回:日本の教育×オープンイノベーション:世界に貢献できる人財づくりと教育富国を目指して
2009年9月5日 - 第1回:2015年の学習環境を考える
2009年6月6日
2008年度のBEAT Seminar Report
- 第4回:BEAT 特別セミナー
教育工学25年の歴史から考えるデジタル教材の未来
2009年3月28日 - 第3回:アートワークショップで子どもの可能性をひらく
2008年12月6日 - 第2回:プロジェクト学習が大学を変える
2008年9月6日 - 第1回:あなたに「ぴったり」な学びをかなえる技術ー教育における協調フィルタリングの可能性を考えるー
2008年6月7日
2007年度のBEAT Seminar Report
- 第4回:BEAT 特別セミナー
未来の教育のために学校と家庭ができることーフィンランドと日本の対話ー
2008年3月29日 - 第3回:子どもの放課後学習環境
2007年12月1日 - 第2回:BEAT 特別セミナー
オープンエデュケーションが切り開く未来—Education 2.0:OCWの次にくるもの—
2007年8月25日 - 第1回:知育玩具ー創造的制作活動をアフォードする人工物
2007年6月2日
2006年度のBEAT Seminar Report
- 第9回:BEAT 特別セミナー
モバイル・ユビキタス技術と学習環境
:BEAT3年間の研究を総括する
2007年3月27日 - 第8回:子どもとネットコミュニティ
2007年1月13日 - 第7回:健康とICT
〜Web2.0で健康に?!〜
2006年12月9日 - 第6回:BEAT 特別セミナー
学習科学とICTは学びのあり方を変えるか
ー高等教育の変革を事例としてー
2006年11月11日 - 第5回:イマドキ・キッズの遊び場、学び場
どのようなチルドレンズミュージアムを創るか?
2006年10月7日 - 第4回:学校の枠を超えた交流学習:
伝え合うことで"異文化"を学ぶ子どもたち
2006年9月2日 - 第3回:ゲーム・ルネッサンス:いつか来た道、これからの道
2006年8月5日 - 第2回:Web2.0で創る『みんながちょっとずつ頭がよくなる世界
2006年6月24日 - 第1回:『かわいい子にはケータイを持たせよ?!』
キャリア各社の子ども向けケータイサービスへの取り組み
2006年5月20日
2005年度のBEAT Seminar Report
- 第12回:BEAT 特別セミナー
2005年度 研究成果報告会
2006年3月25日 - 第11回:「新しい評価技術とデジタル教材での活用」
2006年2月11日 - 第10回:「使える英語を身につけたい!:語学学習を支援するデジタル教材のこれから」
2006年1月7日開催 - 第9回:「Aクラス人材を育成せよ:企業eラーニングの現在」
2005年12月3日開催 - 第8回:「CAI/WBT」
2005年11月12日開催 - 第7回:BEAT 特別セミナー
「ヨーロッパ・モバイル放送の現状と教育利用の展望」
2005年10月 1日開催 - 第6回:BEAT 特別セミナー
「教育における知的所有権・その現在と未来」
2005年 9月 3日開催 - 第5回:デジタル教材の系譜・学びを支えるテクノロジー
シミュレーション
2005年 8月 6日開催 - 第4回:デジタル教材の系譜・学びを支えるテクノロジー
魅せます、CSCLのすべて:1日でわかる協調学習
2005年 7月 9日開催 - 第3回:デジタル教材の系譜・学びを支えるテクノロジー
インタラクティブ学習環境「Logo」
2005年 6月 11日開催 - 第2回:デジタル教材の系譜・学びを支えるテクノロジー
「人と森林」「マルチメディア人体」
2005年 5月 7日開催 - 第1回:デジタル教材の系譜・学びを支えるテクノロジー
ミミ号の航海と合衆国マルチメディア教材の系譜
2005年 4月 2日開催
2004年度のBEAT Seminar Report
- 第8回:BEAT 特別セミナー
Emerging learning technology in education
姿をあらわしはじめた 新しい学習テクノロジー
世界最先端の現場から
2005年 3月 5日開催 - 第7回:BEAT 特別セミナー
プロジェクト成果報告会
2005年 2月 5日開催 - 第6回:DoCoMoモバイル社会研究所 共同企画
ケータイ・ネット・テレビ
〜メディアとこどもの今とこれから〜
2005年 1月 8日開催 - 第5回:「モバイルする!? 科学教育」
2004年12月11日開催 - 第4回:「モバイルコンテンツとインストラクショナルデザイン」
2004年11月 7日開催 - 第3回:「ヨーロッパ・m-learningの現在」
2004年10月 9日開催 - 第2回:「"ケータイ"と教育の未来」
2004年 9月 4日開催 - 第1回:「地上デジタル放送の教育展開」
2004年 7月 3日開催

