3. 講演2 「自律的人材像と今後求められる教育」
藤沢 烈(株式会社RCF 代表取締役社長)
3.1.これまでの教育
3.1.1.近代教育の変遷
1960年代以降、製造業を中心とした産業経済の成長に伴い人材需要が増大したこと、そして教育への国民の熱意が高まったことを社会背景に、教育の在り方は、知識および処理能力の向上に重きが置かれていた。そこでは、マス型の教育が実施され、単線型の学校体系が敷かれていた。
進学率の推移を見てみると、1955年から1975年の間には、高校進学率が約55%から90%強に、大学・専門学校の進学率は約10%から40%に増加している。このような量的拡大の鍵を握るのは、1947年に公布された教育基本法と学校教育法である。教育基本法は、教育の機会均等や男女共学、9年間の義務教育等を定めたものであり、学校教育法は6・3・3・4制の教育制度を定めたものである。
1975年以降は、進学率を延ばすだけでなく、より高度な教育を目指すという目的のもと質的な拡大が図られた。1990年代以降、現在に至るまでは、2次産業ではなくサービス産業が潮流となり、知的な産業が発展を遂げた。そのなかで、知識詰め込み型ではなく、創造性を育む個性重視の教育が試みられたが、「ゆとり教育」はあまり評価されず、経済も低迷期を迎えることとなった。
3.1.2.日本の教育における課題
ではなぜ、教育力が低下してしまったのだろうか。
まず、家族の問題としては、都市化やそれに伴う核家族化が進む中で、家族全体で子どもの教育を考えるというよりも、母親にすべてをゆだねてしまう傾向が強まったことが挙げられる。また学校においては、教員に対しての信頼感が低下する中でもそれに頼らざるを得ない状況が続いている。企業では、個人を守り育てるという機能が消えゆく傾向にあり、ビジネスチャンスを組み立ててすぐに仕事ができる即戦力を持ち合わせない学生には厳しい時代となっている。
つまり、これまでは国・企業・国民の意識が同じベクトルを持って動いている時代があったが、現在はそうではないというのが現状となっている。
3.2.社会の変化と「自律的人材」
3.2.1.社会の変化
これまでは、個人は家庭・企業・国家というコミュニティの一部分であったため、ひとつの企業に尽くしながらひとつの家庭で過ごし続けるという固定的な枠組みが主流であった。それに対し近年では、離職率や離婚率の推移からもわかる通り、個人は家庭・企業・国家を流動的に捉える立場へと変化してきている。私自身、コンサルティング会社を2年で退職して独立したように、時間を調整しながら数社と付き合う、という形態が珍しくない世の中になりつつある。
先週までサンフランシスコにいたが、非常に面白いと感じたのは、いろいろな人種のコミュニティが複数あり、街の中に区画を作っていたことである。それがお互いに排他的に振る舞うのではなく、サンフランシスコ全体の文化の中でうまく融合していた。つまり、これまでは特定の個人がひとつの国籍を持ち、固定的に存在していたが、市民権を海外に持つことが可能な現在ではそれさえも揺らぎ得るということである。
3.2.2.企業の取り組み
個人が流動化しつつある時代に、企業はどのような対応を迫られているのだろうか。
iPhoneとユニクロを例に、共通点を見ていきたい。iPhoneは生産数が多く、億の規模で流通する日もそう遠くはない。一方で、アプリや使い方が多様なため、自分自身でカスタマイズできるという感覚を持つ人が多いだろう。それに対してユニクロも、同じものを身に付けているように一見思いがちだが、シンプルなユニクロにデコレーションをほどこす「デコクロ」が流行するなど、自分流に楽しむ傾向が強い。
この2つの事例に共通しているのは、流通しているハードは同じだが、それを自分で工夫してアレンジすることにより「個人化」を図るという動きである。任天堂DSやAmazonのマーケットプレイスなども、プラットフォーム自体は同一だが、その上に乗るサービスは個性的である。つまり、プラットフォームを大量供給し、ソフト(アプリや着こなし)をオープン化することで、個人化と生産を両立させる企業の在り方が成り立っている。
3.2.3.個人の展開
従来は、ONのときは特定の企業で働き、OFFのときは家庭で過ごすという在り方が主流であった。しかし、最近では、企業人がOFFのときはNPOやネットビジネスでの活動を通して、自分の得意な力を発揮するという在り方に展開をしている例がみられる。
さらに最近では、普段はコンサルタントをして資本主義的なビジネスモデルを追求しながらも、ボランティアやベンチャービジネスという別の軸を持ち合わせるという展開もある。つまり、会社をひとつ辞めてから新たな事を立ち上げるのではなく、両方を併存させる形態が進んでいる。
3.2.4.自律的な人材像の変化
ではさまざまな社会の変化のなかで、自律的な人材育成とはどのようになされるのだろうか。
自律的人材について、(社)日本経済団体連合会の定義をまとめると、「それぞれの職場において主体的に考えて行動する自律型の人」となる。しかし、今の時代を考えると修正が必要だと感じているのは、「職場において」というフレーズである。
経団連の定義に基づくならば個人は社会と接点を持たずしても、企業における立ち位置を守っていれば良いということになってしまう。しかしこれからは、あくまでも主体が個人になることが課題となる。そこで、社会にどう向かいうかという観点で自律的になる必要があるだろう。
3.2.5.自律的な人材に求められる能力
社会と対峙する上で個人に求められるのは、「社会性」「リアルタイム性」「オープン性」の3つであると考える。
まず「社会性」とは、社会のことを自分のこととして捉え、社会の問題を解決することが自分の生活の改善につながると考えて行動することである。「リアルタイム性」とは、過去の事例を報告するのに留まらず、その場で創造し発言することである。「オープン性」とは、自分が誰と何をし、どのように存在をしているのかを伝え続けていく必要性、つまり自分をオープンにし続けることである。
単なる企業人としてではなく、社会全体の中で何を考えるか、その時々で何を主張するのかといった、「社会に瞬間に開かれる」能力が自律的人材に必要なスキルであると考える。
3.3.まとめと課題
では、どのように「社会性」「リアルタイム性」「オープン性」という3つのスキルを身につければよいのだろうか。考えるポイントは、教育内容・教師・インフラのリニューアルにある。
3.3.1.教育内容
求められているのは、コンテンツからインフラまでを連続して考えることであり、新しい環境を供給することである。
具体的な事例として、イスラエルやアメリカで活用されている「Time To Know」を紹介する。簡潔にまとめると、テキストや映像、電子書籍を組み合わせたコンテンツをiPadやWiFiなどのインフラを通じてアプリケーションとして提供するシステムである。コンテンツを利用する学生間で、お互いの成果をギャラリーで共有できること、各個人の進捗状況を教員がモニタリングできることなどが特徴である。つまり、インフラも考慮した統合的なコンテンツの創造が実現しているのである。
3.3.2.教師
例として、フィンランドの教師像を紹介する。フィンランドの教師は、学生を導く「国民のロウソク」として国民から尊敬され、個人の状況に応じてファシリテ-ションをする。さらに、修士が要件であることから教えながら再勉強をするというサイクルが存在している。日本と比較するとその違いが明確である。日本の教師に求められている役割は何なのか、教師の再定義という点からも考え直す必要があるのではないだろうか。
3.3.3.インフラの整備
教科書はいずれ、iPadのようなものになっていくと考えている。個人的には、ノートPCのキーボードよりも、タッチパネルは使いやすさの点で画期的だと思っている。では、1人に1台、端末として与えるための環境づくりをどうするか。学校だけに留まらず、街や旅先、家庭をつなぐ学習環境としての教室をどう実現するのか。格差があって経済的に厳しい方へのフォローをどうするか。これらのことを並行して考えていく必要があるだろう。
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