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030:2007年度 第1回 2007年6月2日開催

知育玩具ー創造的制作活動をアフォードする人工物

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0. 趣旨説明

BEAT第2期がはじまりました。
第1期(2004年年度〜2006年年度)の3年間は、モバイル・ユビキタス学習環境にフォーカスした研究活動を展開しました。今年度からの第2期はもう少し幅を広げて、学習者の文脈に対応した学習支援環境をつくるための様々なプロジェクトを展開したいと思っています。

知育玩具ー創造的制作活動をアフォードする人工物 BEAT第2期の記念すべき第1回公開研究会は、「知育玩具−創造的制作活動をアフォードする人工物−」というテーマで行われました。
情報通信技術の発展により、昔から連綿と続いてきた知育玩具の世界にも大きな変化が起こっています。インタラクティブな、創造性を培うための環境が続々と開発されています。LEGOがインタラクティブテクノロジーと結びついたLEGO Mindstormsはその代表的な例といえるでしょう。
今回の公開研究会では、LEGO MindstormsをはじめとするMITで開発された様々な知育玩具と背景にある「コンストラクショニズム(Constructionism)」の考え方を共有し、学びをささえる「モノ」のあり方について考えていきます。

1. MITメディアラボの知育玩具開.「Topobo」を中心に
佐藤朝美氏(東京大学大学院 学際情報学府 博士課程)

1.1. MITとその研究

知育玩具ー創造的制作活動をアフォードする人工物 MITメディアラボは、米国マサチューセッツ工科大学内に設置された研究所であり、1985年にN. Negroponte教授と当時学長であった故J. Wiesnerによって設立された。メディアラボの研究者は世界的な活躍をしており、LogoのS. Papert氏やクリケットのM. Resnick氏、タンジブルビットの石井裕氏、Design by numbersで有名なジョン前田氏などがいる。
メディアラボの研究グループの多くが、人間とコンピュータの協調をテーマにしており、たとえば従来からのユーザーインタフェース設計も、より幅広い視点から研究が行われている。また、学習活動にコンピュータの知見を取り入れる研究も行なわれており、中でも「コンストラクショニズム(Constructionism)」の考え方にもとづく研究を行なう人達が多い。
「コンストラクショニズム」とは、人が何かを行動する(特に、何かをつくる)過程において、周りの環境にある材料を使って、さまざまな概念や知識を自ら学び取るといった、主体的・積極的な学習観のことである。
このようにMITメディアラボは、学際的な研究に焦点を当て、中心技術に直接関わる研究にとどまらず、技術の応用や斬新な方法による統合分野を開拓している。

1.2. パパートとピアジェ

1.2.1. パパートの「コンストラクショニズム」

「コンストラクショニズム」を提唱したシーモア・パパート(S. Papert)教授は、教育コンピューティングの第一人者であり、また数学者、人工知能研究者でもある。1928年南アフリカに生まれ、1954年からケンブリッジ大学で数学研究を行ない、1958年からはジュネーブ大学でジャン・ピアジェ(J. Piaget)のもと発生的認識論研究に従事する。そこでピアジェの「構成主義」に強く影響を受け「コンストラクショニズム」の考え方を生むことになる。
その後、1964年にMIT教授に就任し、認知科学者Marvin Minsky氏と共に人工知能ラボを設立。1968年より子ども向けプログラミング言語「Logo」開発した。1985年にMITメディアラボ創設に参画し、現在も活躍中である。

1.2.2.「コンストラクショニズム」とピアジェの構成主義

パパートに大いなる影響を与えたピアジェは、スイスの心理学者で、子どもの思考の発達段階説を唱えた偉大な研究者である。その偉大な功績の1つが「構成主義(Constructivism)」を唱えたことである。
知育玩具ー創造的制作活動をアフォードする人工物 「構成主義」とは、「人が、自分がすでに持っている知識構造(シェマ)を通して外界と相互作用しながら、新しい知識を得て、新しい知識構造を構成する」という考え方である。
つまり、知識というものは新しい情報を頭の中にどんどん蓄積していくのではなく、すでに持っている知識と相互作用しながら絶えず作り直していくものであるといえる。その考えをもとにパパートが打ち出した考え方が「コンストラクショニズム」であり、パパートはそのツールとしてLogoの開発を行った。
「子どもがLogo言語を使ったインタラクティブなプログラミングでコンピュータグラフィックスを描いたり、ロボットを制御したりといった、自らの環境(道具や材料)に働きかけ環境そのものを構成することを通して学習する」
つまりパパートがLogoの開発で行ったことは、ピアジェの構成主義をもとに学習のツールを作り、学習環境そのものを提案したものといえる。

1.3. Logoとその進化

Logoとはコンピュータを使用して子ども(8歳から12歳対象)の思考能力向上の訓練を目的としたプログラミング言語である。たとえば、図形の描画を、画面上の絶対座標ではなく、タートル(亀)と呼ばれるカーソルを基準点とした相対座標(回転角度と進行距離で指定)で行なう点が、他のプログラミング言語と一線を画している。
パパートは、子どもにプログラミングのスキルを身につけさせることを目的とはしなかった。「動機付け→外化→デバッグ→知識構造の変化」がループし「学習」に至る、という以下に示すようなプロセスで、数学(主に幾何学)的な考え方や、具体的な手続きについて学習が生まれることを想定していた。

  • まず、コンピュータ画面に絵を描きたいという「動機付け」が起こる。
  • 知っている方法でプログラミングをして絵を描くといった「外化」がなされる。
  • うまくいかなかったときには理由を考え、反省して修正を施す「デバッグ」が行なわれる。
  • どうにかしてうまくいく方法を手に入れることで「知識構造の変化」が起きる。
  • 一度でうまくいかなければ、何度でも繰り返され、最後完成することによって「学習」が行なわれる。

1970年代に開発されたLogo言語は、技術の発達やコンピュータの普及により主に3つの流れで進化した。

  1. マルチメディアオーサリング
  2. ロボティクス
  3. プログラミング言語

今回は、このうち2のロボティクスについて取り上げる。

1.4.「Topobo」の紹介

佐藤朝美 「Topobo」は、MITメディアラボの石井裕氏が率いるタンジブル・メディアグループの研究室で、2004年にHayes RaffleとAmanda Parkesによって研究開発された「動くモジュール」と「動かないモジュール」とを「LEGO」のように組み合わせて、複雑な運動をつくり出すことができるロボットおもちゃである。
「動くモジュール」と「動かないモジュール」には、小さな穴が空いていて、ネジのようなものでパーツとパーツをつなぎ合わせる。研究の過程でパーツは様々な改良がなされてきた。
「Topobo」は、パパートの学びの系譜と石井裕氏のタンジブル・ユーザー・インタフェースを融合したものである。タンジブルとは「実体にあるもの・触れられるもの」という意味で、モデルを手で動かすという自然な身振りで、動きを「プログラミング」できることを実現している。また、手で何かに触れるという他愛も無い遊びの中で、新しいものを発見し学習していくことができる。
USBで電源を繋ぎ、白いボタンを押すと動かした動きが記憶され、もう一度押すと記憶させた動きが再生されるようになっている。また、「Queen」と呼ばれるパーツを使うと一度に複数のパーツの動きを制御することができる。

1.5.「Topobo」ワークショップと学び

先日、北九州イノベーションギャラリーで、「Topobo」のワークショップが行なわれ体験してきた。参加者は小学生の親子が多かった。
ワークショップでは、「歩く動物を作ってね!」という課題が出され、参加者は画用紙に自分が作ろうと思う歩く動物の絵を描くことからはじまった。それを見ながら「Topobo」で歩く動物を作成することになるが、もちろん一度で歩くものが完成しない。失敗してはやり直しを繰り返すことになる。

「Topobo」の研究では、5歳から13歳を対象に多くの子どもたちに体験してもらって、その活動が分析されている。その中で、作成過程に2つのタイプがあることが示されている。

  • 少しずつ動きを試しながらブロックをつなげていくタイプ
  • まず全部構造を作り上げてから最後に動きをつけようとするタイプ

「歩行する」という課題を達成できるのは前者の方が多く、後者は高学年の子どもに多く見られる傾向がある。実際ワークショップでも、保護者で参加しているお父さんが、美しい立派な物体を作り上げたはいいがうまく動かなかったということがあった。

1.6.「Topobo」に支援される概念

実際に「Topobo」で何かをつくってみると、バタバタするだけで前に進まず、歩かせることの難しさを実感する。前に進むようにするためにはそれなりのコツがあり、「Topobo」を通じて次のような知識領域が必要になると言われている。

  • Topoboによる知識領域
    「バランス、重心、調整、相対運動、多自由度の動き、部分と全体のインタラクションの関係」

このような知識は、

  • 運動学的なシステムに作用する、ある種の物理的原理の理解
  • 組み立てロボットにおけるシステムの調整、動きへの対処、どう動かすのかについての理解

につながっている。これらはとても難しい概念であり、高校や大学でしか教わらないが、子どものうちから「Topobo」で遊び体験することで、具体的なものから抽象的なものを操作へと転移をする架け橋になると考えられている。

1.7. まとめ

ピアジェの「構成主義(Constructivism)」とパパートの「コンストラクショニズム(Constructionism)」の違いについてはよく指摘される。もともとパパートは、ピアジェの弟子なので、子どもの学習を説明するときには、子どもと環境が相互作用する中である種の認識スキルものが出来上がるという説明原理として「構成主義」を用いている。
パパートはそのような学習を起こすときに、ものを実際につくる(Construction)ということが、学習に大変有効であるという教育モデルとして「コンストラクショニズム」をダブルミーニングで使っている。この点が分かりにくいかもしれない。
これには対立用語が何かを考えれば分かりやすい。「コンストラクショニズム」の対立用語は「インストラクショニズム」である。この「インストラクショニズム」では、知識は「教えられるもの」である。対して、「コンストラクショニズム」は教えられるものではなく、ものをつくったりインタラクションすることで知識が出来上がっていくという考え方である。

2.「LEGO マインドストーム NXT」「ピコクリケット」の紹介
石原正雄氏(株式会社ラーニングシステム 代表取締役社長)

2.1. LogoからLEGOへ

知育玩具ー創造的制作活動をアフォードする人工物 「コンストラクショニズム」を研究するMITグループにおいても、実際に製品開発をするLEGO社においても、「学びと遊び」は不可分の子どもたちの活動、もっと言えば大人も含めて「学びと遊びは非常に近いところに存在している」という考え方をしている。言葉としてはPlayful learningという言葉を使っているし、LEGO社ではSerious funであるとかHard funという言葉で学びと遊びの近さを捉えている。
MITにおけるパパートを中心としたEPISTEMOLOGY AND LEARNING研究所において、1980年代にはLogo言語を用いて、LEGOでつくった具象物を動かしていく「LEGO-Logo」というプロジェクトがスタートしている。
これは、画面の中のLogoから具体的なLEGOでつくった具象的なものを動かそうとする、コンピュータの中のマイクロワールドを外へ出すことによって、いろいろ自分で触ってつくって動かすという変化とみることができる。

2.2. Programmable Bricksの系譜

石原正雄 LEGO Mindstormsにつながる研究チームとして「Programmable Bricks」というプロジェクトがある。「RCX」というLEGO Mindstormsの第一世代の製品は、まさに見た目がLEGOブロックで、この中にマイクロコンピュータやセンサー、スイッチ、出力デバイスをつなげるための端子がついているプログラミング可能なブロックである。これを制御用ソフトウェアとつなげることで、子どもたちは、頭の中で考えたモデルを実際に動かしてみて、その差を見ながらいろいろな問題解決をして、自分の動かしたいように動かすことができる。
2006年には、「NXT」という第2世代が出ている。第2世代では、回転角を微妙に45度だけ動かしたいとか、細かい制御がやりたいとかいう、高度化した子どもたちの遊びの要求に応える仕様となっている。サーボモーターにも回転センサー(ロータリーエンコーダ)を備え、回転角を常に検出できるようにもなっている。超音波センサー、光センサー、サウンドセンサー、ランプ、モーターなどの出力デバイスにもつながり、子どもたちは、ソフトの中からより細かい制御をすることができるようになった。

2.3. Mindstormsの紹介とデモ

Mindstormsには、センサー、モーター、RCXのハードウェアとソフトウェアが必要になる。ソフトウェアで、子どもたちが自分でつくったロボットをどのように動かしたいかをプログラミングしていく。それを赤外線によって転送してロボットが動くようになっている。
第2世代には「ROBOLAB」というプログラミング環境も用意されている。これは「LabVIEW」という大学や企業の研究所で使う計測制御用のプログラムをベースに、子どもが使いやすいようにカスタマイズしたものである。中学生でも、大学レベルのプログラムをつくることが可能である。

2.4. LEGO Mindstormsを使った活動例

Mindstormsを使って過去5年間課外活動を続けている小学校がある。作ったロボットでサッカーをやらせ、ロボットが動いた移動距離をどうやって測れるかということ、データロギングという機能を使って考えさせている。遊びの中で何か道具が必要になったとき、子どもたちはLEGOの機能を組み合わせて、いろんな道具を自分たちで発明してしまうことができる。なんとなくではなく非常に明確な目標を持った道具を自分たちで作り出すことが、やってみると子どもたちにとっても大変面白いことになっている。
また、埼玉大学との連携で「ロボットと未来」プロジェクトを立ち上げて、LEGO Mindstormsを使っていろんな変ったプロジェクトを立ち上げては近隣の子どもたちにやってもらっている。子どもたちは週1回の講座にやって来て新しいことを憶えて活動していく。
国内ではロボコンなどの事例もある。スタートは6.270というMITのロボットコンテストである。最近のものはストリーミング放送されている。同じようなスピリットのものに、FIRST LEGO LEAGUEがあり、子どもたちを対象に国内をはじめ世界中で毎年行なわれている。
子どもたちが実際に学校とか放課後にこれらの道具を使ってどういう活動をしているのか、という研究をしているのがTufts大学のEngineering Education Outreachである。工学的な考え方や見方を学習するときに、「コンストラクショニズム」の考え方は有用であるが、教育を実践するときに指導プログラムというものはどうやってつくるのか、指導案はどうするのか、評価はどうするのか、という課題も多い。この大学では、このような評価や教育プログラムはどうしたらいいのかについて、たくさんのノウハウを持っている。

2.5. ピコクリケット

石原正雄 今まで見てきた二足歩行のようなロボティクスをつかったものは、どうしても参加する子どもたちが限られてしまう。こういうものを子どもたちの前に出したときには、圧倒的に男の子が群がる。「これで何をするか」ではなく、「これが面白そうだ」というので群がってくる。女の子や一部の男の子には、「これで何をするのか?それが面白くなければやらない」という子もいる。
参加の層を広げるためにはどうしたらいいのか、メディアラボのグループが考えた結果行き着いたのが、「ピコクリケット」というものである。「ピコクリケット」は、かなり小さいもので、スイッチ1つで回転数が変るミキサーである。これをぬいぐるみに入れたり、自分のアクセサリーをつくったり、トイレットペーパーを決まった長さで切る装置など、「ピコクリケット」を用いてさまざまなものをつくることができる。
「ピコクリケット」は、「作品をつくる」「プログラムをつくる」「発表をする」という3つの活動を組み合わせて子どもの主体的な問題解決、グループ学習、創造性の育成と、その教育実践を効果的に支援することを目的としている。

3. クリケットワークショップにおける学び −大川センターと小学校の実践から
森秀樹氏(株式会社 CSK ホールディングス)

3.1. イントロダクション

森秀樹 CSKホールディングスはIT関係の企業ですが、社会貢献推進室というところがあり、大川センター等を中心に小学生を対象とした物作りや表現活動を支援するワークショップを行なっている。これまで300回を超える、「クリケット」を使ったワークショップを、大川センターや日本各地の科学館や博物館、小学校の中で行ってきた。これらの実践から「クリケット」を使ってどんな活動をするのか、子どもたちがどんな作品をつくっているのかを紹介していく。

3.2. MITクリケットとピコクリケット

「クリケット」には、研究用につくられた「MITクリケット」と「ピコクリケット」がある。電池で動くコンピュータで、モーター、サウンド、発光ダイオードを繋いで、パソコン上でブロック型のプログラミング環境を使ってプログラムを作成する。また「クリケット」には、赤外線送受信機能があるのでプログラムによってコミュニケーションすることができる。また、そのプログラミング環境のLogoブロックスは、ブロックを組み上げるようにプログラミングする事ができる。

3.3. クリケットワークショップの実践紹介

森秀樹 ワークショップは、20人程度の参加者と、3人から5人程度のファシリテーターによって、約4時間で構成される。男の子だけでなく、女の子も楽しめるように、またロボットだけでなく、いろんな事が楽しめるように配慮されている。
ワークショップの大まかな流れは、イントロダクション、それぞれの自己紹介、クリケットの紹介と使い方の説明と練習、制作(2時間程度)、作品の発表会、最後にデジカメやビデオ映像をもとにした振り返りとなる。テーマに関しては「うごくおもちゃをつくろう」、「ウェアラブルコンピュータをつくろう」など、担当者によってテーマが工夫されている。
子どもたちがどんなものをつくるのかを紹介する。私たちのワークショップでは、クリケット・モーター・センサー・身近にある材料やアート用の材料を使って作品をつくってもらっている。 クリケットはとても小さくて軽いので、身につけるものをつくることもできる。いわゆるウェアラブルコンピュータである。
他にもこれまでに様々な作品が子どもたちによって生み出されてきた。例えば、ある小学4年生の男の子と女の子のグループはサッカー選手をつくって、「シュート!」という声の音を関知したらモーターを動かしてボールを蹴るというものをつくった。その際、ゴールにもセンサーをつけて、シュートできたかどうかをライトで表示するようにもした。

3.4. 小学校でのワークショップ実践

森秀樹 これまでにいろいろな小学校で、クリケットを用いた授業を行っている。
立命館小学校では「ロボティクス」という授業の中で一緒に取組んでいる。年間30時間のロボティクスの授業時間のうち、約10時間を使ってクリケットを使った作品づくりに取り組んでいる。本年度は、小学1年から4年までを対象に行う予定である。
奈良女子大学附属の小学校では小学2年の「情報」という授業の中で、去年の10月から3月まで週1回ずつ、授業の時間1時間と放課後を使って行った。
他にも、京都教育大学附属京都小学校では小学5年生を対象とした「サイエンス」という授業でクリケットを用いている。

3.5. ワークショップをするための課題

クリケットを用いたワークショップにおいては、以下のような課題がある。

  • スタッフや先生方に負担が大きい
  • 学校でやる場合の運営が大変
  • スタッフ向けのワークショップ実施
  • クリケットそのものの費用などの問題
  • 学習の評価の問題

3.6. ワークショップの評価

1回のワークショップの中で子どもたちがどう変化したかはなかなか分かりにくく、そこでどういう学びが起きたのかも分かりにくい。
繰り返し参加する子どもを見ていると、

  • 前回うまくいかなかったところをやってみよう
  • 前回うまくいったから続けてやりたい

というパターンがあるようだ。

作品がうまくつくれるようになると、グループ内で活発にコミュニケーションするようになる。このように何度か参加している子どもたちの活動からも評価について、今後考えていきたいと思っている。とはいえ、クリケットワークショップにおける学びをどのように捉えるかは、まだ大きな課題である。
一方、クリケットワークショップは子どもたちにとってどこが楽しいのかを考えると、

  • クリケットといろんな材料を使って自分で作品をつくっていく楽しさ
  • 作品を見せ合うことの楽しさ、一緒につくることの楽しさ

があると考えている。ワークショップに参加している他の参加者やファシリテータなどの他者の存在が、クリケットワークショップでの作品づくりをより有意義なものにしていると考えている。

4. 質疑応答

Q LEGO Mindstormsやピコクリケットの日本語版の予定はありますか。どうやったら手に入れたらいいですか。いくらですか。

石原正雄 石原:ピコクリケットは今年から発売が始まっています。製品ドキュメントは日本語化されています。ソフトウェアは現在日本語化作業中です。パッケージひとつ5万円です。 現行製品LEGO Mindstormsは日本語化済みで、だいたい4万5千円前後です。旧世代は、2009年まで供給予定で、一番安いもので3万円前後。ソフト付きで4万円弱ぐらいです。もちろん全て日本語化済みです。

Q 今日紹介されたものはどれも、幼児から高齢者まで対象は限定されていませんが、それぞれが活動する際に、どうすればそれぞれの発達段階なりの学び方ができるでしょうか。

佐藤:Topoboの研究では、幼児5歳から13歳までを対象にしており、発達段階毎にできることが異なっているという結果が出ています。5歳児になるとパーツをつなげて動かすことに楽しさを感じるのだけども、そのあとはお話をつくるところに関心が行きます。実際に動くことやプログラミングに関心が行くのは小学生以降というようです。それらの知見をいかしていけば良いのではないかと思います。

:私たちの方でワークショップをやってみた小学校の1、2年生でモーターを制御することができて、4年生くらいからもう少し複雑な、入力があって出力があるプログラミングに取組む感じです。大学生でも使えて、文系の学生さんが情報教育の一環で使っている例もあります。学校の先生向けに新しい教材に触れてもらう機会がありますが、大人は大人なりの作品づくりをします。年齢に関係なく、作品づくりを行う人が持つ技術や知識を活かせるのもクリケットの特徴です。

Q 今日紹介された活動にはどれもテクノロジーが入っているが、それによる大きな効果があるのでしょうか。

石原:LEGOエデュケーショナルセンターでは、たくさんの子どもたちが週1回のペースなどで通っています。たとえば、小さいお子さん3歳はLEGOブロックだけで遊ぶところからの教育カリキュラムがあり、コンストラクショニズムの考え方で、数量・言葉・社会性に関していろいろな発達領域で気づきがあったり学びがあったりするよう組まれています。
電子デバイスが入るとき、たとえば人間が繰り返しの動作をするのは人間の手では難しいので、制御の考え方を入れてやることができます。
知育玩具ー創造的制作活動をアフォードする人工物 また身の回りのものがどういうしくみで動いているのかを知ることができるようになる効果もあると思います。たとえば温度センサーを使って室温コントロールのしくみを知ることができたりします。
このように、テクノロジーを用いることで、自分たちの周りのしくみを自分が表現しながら理解できること、また発明発見をこうした機械を使うことで容易にできるようになるという特徴があります。
ピアジェの言葉で「教育の使命は、子どもたちを発明者・発見者にすることである」という言葉があります。そういう観点で、テクノロジーを用いることで、身の回りのことを豊かにできるのではないかと思います。

:クリケットを使うことでどう違うかについてですが、プログラミングをすることで、そこにある種の理論的な思考が働くというのが違いだと思います。
もちろん違わない部分もたくさんあります。身の回りにあるものでつくる工作と変らない部分はあります。クリケットを使うことで「何かを作りたいな」という魅力を付与することができるのではないでしょうか。

Q これらの知育玩具を使うことで何が学ばれていることになるのでしょうか。

佐藤朝美 佐藤:ピアジェは「人というのは外界と接触しながら知識を構成していく」と述べているように、外界として存在するモノと絶えず接触することで、知識を構築し続けていくことがこれからの子どもに必要であると考えていたようです。
さらにパパートは、数学を学ぶ文化が身近なところに無いことに問題を感じて、今日紹介したような環境を発想したのだという話もあります。
それと同じで、こういったおもちゃの形をした人工物と接触していくことを通して、これからの子どもは何かを身につけていかなければならないのではないかと思います。

石原:「ものの見方・考え方」を身につけることだと思います。LEGO Mindstormsといったものは、いろんな事ができますので、問題は「何を学ばせたいのか」ということになると思います。
自分で育て、みんなで共有することもあると思います。特定の教科や知識に結びついたものという考え方はしていません。

森秀樹 :クリケットワークショップについていうと、狭い意味では、プログラミングが分かるとか、コンピュータのしくみが分かるとか、ロボットのしくみが分かるとかです。
広い意味では、子どもたちが学び方を再び学ぶという事ができればいいと思っています。小さい頃にやっていたようなあるものを作ってみたり手を動かしてみたりするなかでの、直接的で体験的な学びを、クリケットを使うことで小学生になっても大人になっても、もう一度できるようになればいいと思っています。

Q 長期的にこれらをやることによる変容に関して、なにか研究はありますか。

石原:長期的に続けた結果によってどう変容するのかということは、あらかじめどういう評価項目を立てるのかということに関係すると思います。
7年くらい講師をし続けて見ている経験からすると、子どもたちは、1つの問題にすごく長い時間取組んでいることは多くの観察で見られます。今の子どもたちの生活が非常に短い時間で分断されているのに対して、ものをつくっていると手間も時間もかかります。そういうことをやっていくうちに、何かを解決するため、自分の納得するところまで持って行くのには時間がかかるものなのだなと気づけるようになるのかなと思います。
またその他に理数系のことが好きになるかどうかは現象として出てくることはありますが、これが原因かどうかは十分いえないところです。ただ傾向としては理系好きな子が多いなということはあります。

佐藤:10年後、それに取組んだ子が本当に他の子と差が出るものなのかという結果は、教育というのはいろんな要因が重なって出てくるものですから、分からないと思います。
ただし、1つの課題に取組んで自ら何かを具現化していくという体験は、学校のカリキュラムの中ではなかなか味わえない貴重な体験ではないかと思っています。

:長期間参加することでどう変るのかは私自身も興味はあります。数回にわたってワークショップに参加する子どもたちについては、調査したわけではないですが、ファシリテーターの実感として変化してきていることが分かっています。作品をつくる態度と普段の学習に向かっていく態度は、似ているのではないかという学校の先生の意見もありました。

山内祐平 今回のテーマを、なぜ「知育玩具」としたのか。それは「知育教材」とすると、目標を決めたものに感じられてしまうからです。知育玩具そのものは、ものだけ取るとおもちゃに近いが、接触する環境として「コンストラクショニズム」の考えを踏まえたものとなっています。
かつて20年ほど前、LEGOの評価に関する論文レビュー(当時、Logoはプランニング能力に転移するのかどうかの論争があった)を行なって以来考え続け、最近ようやくわかったことがあります。
パパートがやりたかったことは、「言葉をつかって詩をつくる」「数式を使って世界を説明する」というようなケタのものをもう一つつくりたかったのではないか、ということです。ものとインタラクションしながらプログラミングして何かをつくる活動がそれぐらい大きい目標として設定されているのです。

考えていただきたいのですが、「数式を使って世界を説明する」ということは、ほぼ学校教育で自明に教えられていることですが、それがどう有効かは実のところ誰も検証していません。経験値的にそれが必要だということで、ずっと伝統的に教えられてきただけなのです。
ある記号体系を使って世界とインタラクションを続けていくことが人間の知性の源であると考えられています。それが言語であるとか、音楽的記号であるとか、数学的記号であるとか、様々なモードがあると思いますが、おそらくそれの1つとしてこうした論理的なプログラミングのようなものが別の形の知性の営みとして未来の子どもたちの教育の目標に入るんだ、というぐらいの大きいことをパパートは考えているのだと思われます。
パパートが、あまりに大きなことを考えているため、目標がその中に埋め込まれてしまって、「何のためにやるんですか」ということも、それ自身の中に含まれてしまっている自己言及的な構造がある。そのために何が学べるかという質問に答えるのが難しいのだと思います。
今回の発表であらためて認識を強く持ったのは、これらの知育玩具が、言葉で詩をつくるとか、音符で曲をつくることと決定的に違うのは、ものとインタラクションするという点です。
この点が非常に新しく、しかもインタラクションするプロセスの中に記号活動が埋め込まれていて、こういうタイプの知的活動というのはこの種のものが出るまで実現不可能だったので、学習としては新しい領域を開拓しつつあるのだろうなという気がします。
しかしこういう形で学んだ世代が、学んでない世代と比べてどうなのか、という評価は非常に難しい。5年や10年のスパンで評価研究をする中では、いろんな要因に晒されるため、それらの要因との切り分けが、まずできないという点があります。それは統制できないためです。
知育玩具ー創造的制作活動をアフォードする人工物 これらの知育玩具の評価は、長い時間の中で経験値的に皆がよいと考えるようになったときに、その効果が認められる、歴史が証明するという形でしか判断できない事柄だと思います。

テーマ

知育玩具
-創造的制作活動をアフォードする人工物

情報通信技術の発展により、昔から連綿と続いてきた知育玩具の世界にも大きな変化が起こっています。
インタラクティブな、創造性を培うための環境が続々と開発されています。
LEGOがインタラクティブテクノロジーと結びついたLEGO Mindstormsはその代表的な例といえるでしょう。
今回のBEAT Seminarでは、LEGO MindstormsをはじめとするMITで開発された様々な知育玩具と
背景にある「Constructionism」の考え方を共有し、学びをささえる「モノ」のあり方について考えていきます。

日時
2007年6月2日(土)
午後2時より午後5時まで
場所
東京大学 本郷キャンパス
工学部2号館北館 92-B教室
内容
1. 趣旨説明 14:00−14:10
東京大学大学 BEAT 准教授 山内祐平

2. 講演 14:10-16:00
●MITメディアラボの知育玩具開発〜「Topobo」を中心に
佐藤朝美氏(東京大学大学院 学際情報学府)

●「レゴ マインドストーム NXT」「ピコクリケット」の紹介
石原正雄氏(株式会社ラーニングシステム 代表取締役社長)

▼休憩+「レゴ マインドストーム NXT」「ピコクリケット」体験

●クリケットワークショップにおける学び
〜大川センターと小学校の実践から
森 秀樹氏(株式会社 CSK ホールディングス)

3. フロアディスカッション 16:00-16:30

4. パネルディスカッション 16:30-17:00
「人工物・創造的活動・学習を結びつける鍵は?」
司会:山内祐平
パネラー 佐藤朝美・石原正雄・森 秀樹
定員
定員70名
参加費
無料

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