5.1.この3年間のまとめ
3年間前から、モバイル・ユビキタス技術を活用した研究・開発を行ってきた。しかし、ここで必ず問題となるのは「それはPCでもできるのでは?」ということである。そこで色々と試行錯誤した結果、3年目になってやっと形が見えてきたと感じている。
モバイル・ユビキタス技術を活用する最大の理由は、学習者の状況から学びの環境を構成し、「今・ここで」必要なものを提供することである。今までの教育コンテンツは「これがベストです」という形で提供され、「これでわからないならわからない方が悪い」という態度であった。それではダメで、学習者ひとりひとりの環境があり、それに合わせた学びの環境をフレキシブルに構成できるのがモバイル・ユビキタス技術だと考えている。
モバイル・ユビキタス技術というと、「いつでもどこでも学習ができる」と思われがちであるが、これは「いつでもどこでも学習しない」と同義である。そうではなくて、「いま、ここで必要なもの」を実現できるのがモバイル・ユビキタス技術である。これに気がつくのに2年か3年はかかった。
5.2.今後3年の研究トレンド
- コンテキスト・テクノロジー
学習者が携帯電話でのクイズに間違えたから、正解に関する情報を送るということは可能であるが、少ない情報から学習者の状況を知ることは難しい。ソーシャルフィルタリングでパターンを抽出して、学習者の状況を高い精度で予測するテクノロジー、コンテキスト・テクノロジーが必要である。 - コンテンツの動的生成
コンテンツを開発者が頭付き合わせて開発をするという状況は、今後も続くと思われるが、それほどストーリー性が必要ないものについては、文脈に応じてコンテンツを動的に生成・提示することができる。またWeb 2.0的にユーザが作ったコンテンツもある。生成したもの、ユーザが作成したもの、プロが作成したもの、過去のものこれら全てを必要に応じて学習者に提示していくテクノロジーが必要である。 - デジタル・ポートフォリオ
これから生まれてくる子どもたちが作成する情報は、デジタルデータが占める割合が大きくなる。写真、ビデオ、学習記録などである。人間に関するあらゆる情報がデジタル化されると、大量・長期間の学習履歴情報が存在する。これはかつて無かった事態である。このような情報を活用すべきである。
5.3.BEAT “2.0” へ向けて
以上のような状況をふまえて、BEATでは「学習者の状況に動的に応答する学習環境」を提案していきたいと考える。
学習をしていく上で、わからないとき、迷ったとき、夢を持ったときに、状況に応じた適切なナビゲーション、ひとりひとりにフィットした動的コンテンツの提供、学びの歴史と学習コミュニティへの接続を実現したい。
そこで、動的に応答する学習環境を提供するには3層のレイヤーが必要である。
- インタフェース 「モバイル・ユビキタス技術」
「いま・ここ」で必要な文脈情報を取り出す - エンジン 「データマイニング技術」
インタラクションから得られた情報と、大人数・長期間の学習履歴情報から、応答方針を決定 - コンテンツ 「メタデータ・モジュール化」
エンジンに求められ得た応答方針に基づき、適切なコンテンツの動的生成・コミュニティへの接続
5.4.情報学環・福武ホール
2008年2月にBEATは、ベネッセの福武会長からご寄附をいただいて建設中の福武ホールに拠点を移動する。中には「福武ラーニングラボ」、「福武ラーニングスタジオ」、「福武ラーニングシアター」が設置され、ラボでは研究活動を、スタジオではワークショップを、シアターではBEAT Seminarを行うことになる。
5.5.最後に
最後にBEATが所定の成果を上げて、次期3年間につなげることができたのは、ここにいらっしゃる皆様のおかげです。今後3年間もがんばっていきたいのでどうぞよろしくお願い申し上げます。どうもありがとうございました。
今回は2006年度の成果報告とともに、BEAT第1期最後のセミナーとなりました。今回の報告にあったプロジェクトは、いずれもBEAT第2期のビジョンの実現を予感させるもので、今後3年間への期待が高まりました。BEATセミナーは今後、3ヶ月に1回になりますが、より密度の高いものになると思います。どうぞ今後ともご期待ください。
BEAT Seminar Report
2010年度開催
-
第1回:電子書籍時代の教材:誰が作りどんな形になるのか
2010年5月29日
2009年度開催
- 第4回:BEAT 特別セミナー
学習環境のソーシャルイノベーション
2010年3月27日 - 第3回:モバイルARが拓くPlace Based Learningの世界
2009年12月5日 - 第2回:日本の教育×オープンイノベーション:
世界に貢献できる人財づくりと教育富国を目指して
2009年9月5日 - 第1回:2015年の学習環境を考える
2009年6月6日
2008年度開催
- 第4回:BEAT 特別セミナー
教育工学25年の歴史から考えるデジタル教材の未来
2009年3月28日 - 第3回:アートワークショップで子どもの可能性をひらく
2008年12月6日 - 第2回:プロジェクト学習が大学を変える
2008年9月6日 - 第1回:あなたに「ぴったり」な学びをかなえる技術
ー教育における協調フィルタリングの可能性を考えるー
2008年6月7日
2007年度開催
- 第4回:BEAT 特別セミナー
未来の教育のために学校と家庭ができること
ーフィンランドと日本の対話ー
2008年3月29日 - 第3回:子どもの放課後学習環境
2007年12月1日 - 第2回:BEAT 特別セミナー
オープンエデュケーションが切り開く未来
—Education 2.0:OCWの次にくるもの—
2007年8月25日 - 第1回:知育玩具
ー創造的制作活動をアフォードする人工物
2007年6月2日
2006年度開催
- 第9回:BEAT 特別セミナー
モバイル・ユビキタス技術と学習環境
:BEAT3年間の研究を総括する
2007年3月27日 - 第8回:子どもとネットコミュニティ
2007年1月13日 - 第7回:健康とICT
〜Web2.0で健康に?!〜
2006年12月9日 - 第6回:BEAT 特別セミナー
学習科学とICTは学びのあり方を変えるか
ー高等教育の変革を事例としてー
2006年11月11日 - 第5回:イマドキ・キッズの遊び場、学び場
どのようなチルドレンズミュージアムを創るか?
2006年10月7日 - 第4回:学校の枠を超えた交流学習:
伝え合うことで"異文化"を学ぶ子どもたち
2006年9月2日 - 第3回:ゲーム・ルネッサンス:
いつか来た道、これからの道
2006年8月5日 - 第2回:Web2.0で創る
『みんながちょっとずつ頭がよくなる世界
2006年6月24日 - 第1回:『かわいい子にはケータイを持たせよ?!』
キャリア各社の子ども向けケータイサービスへの取り組み
2006年5月20日
2005年度開催
- 第12回:BEAT 特別セミナー
2005年度 研究成果報告会
2006年3月25日 - 第11回:新しい評価技術とデジタル教材での活用
2006年2月11日 - 第10回:使える英語を身につけたい!:
語学学習を支援するデジタル教材のこれから
2006年1月7日開催 - 第9回:Aクラス人材を育成せよ:
企業eラーニングの現在
2005年12月3日開催 - 第8回:CAI/WBT
2005年11月12日開催 - 第7回:BEAT 特別セミナー
ヨーロッパ・モバイル放送の現状と教育利用の展望
2005年10月 1日開催 - 第6回:BEAT 特別セミナー
教育における知的所有権・その現在と未来
2005年 9月 3日開催 - 第5回:デジタル教材の系譜・学びを支えるテクノロジー
シミュレーション
2005年 8月 6日開催 - 第4回:デジタル教材の系譜・学びを支えるテクノロジー
魅せます、CSCLのすべて:1日でわかる協調学習
2005年 7月 9日開催 - 第3回:デジタル教材の系譜・学びを支えるテクノロジー
インタラクティブ学習環境「Logo」
2005年 6月 11日開催 - 第2回:デジタル教材の系譜・学びを支えるテクノロジー
「人と森林」「マルチメディア人体」
2005年 5月 7日開催 - 第1回:デジタル教材の系譜・学びを支えるテクノロジー
ミミ号の航海と合衆国マルチメディア教材の系譜
2005年 4月 2日開催
2004年度開催
- 第8回:BEAT 特別セミナー
Emerging learning technology in education
姿をあらわしはじめた 新しい学習テクノロジー
世界最先端の現場から
2005年 3月 5日開催 - 第7回:BEAT 特別セミナー
プロジェクト成果報告会
2005年 2月 5日開催 - 第6回:DoCoMoモバイル社会研究所 共同企画
ケータイ・ネット・テレビ
〜メディアとこどもの今とこれから〜
2005年 1月 8日開催 - 第5回:モバイルする!? 科学教育
2004年12月11日開催 - 第4回:モバイルコンテンツとインストラクショナルデザイン
2004年11月 7日開催 - 第3回:ヨーロッパ・m-learningの現在
2004年10月 9日開催 - 第2回:"ケータイ"と教育の未来
2004年 9月 4日開催 - 第1回:地上デジタル放送の教育展開
2004年 7月 3日開催

