BEATの目標はモバイル・ユビキタス技術の教育への応用であるが、このプロジェクトに関してはモバイル・ユビキタス技術を用いていない。この研究は、次期に備えて行った戦略的研究であると捉えている。
モバイル・ユビキタス技術はユーザに近いインタフェースの技術であり、トータルな教育システムとして成立させるためには、その対極にあるサーバサイドの技術が必要である。そのサーバサイドに関する研究を行ったのが本プロジェクトである。
また、大学の研究のほとんどは商用にならないが、このサービスは現実に商用サービスとして動いている。それはBEAT側に、一般の人にも使ってもらえるテクノロジーを開発したいという欲求があるからである。
以上において今までの発表とは毛色が異なったものになっていることをご了承いただきたい。
3.1.「学習ナビ」について
宮下直子(ベネッセコーポレーション)
ベネッセの事業領域は教育、語学、介護、生活の4つである。皆様がよくご存じのものは、進研ゼミや進研模試だと思われる。進研ゼミとは幼児から高校生を対象とした通信教育サービスで、現在400万人以上の方にご利用いただいている。
私が担当しているのは進研ゼミ高校講座で、進路・進学の総合サービスを目指している。ここで一番重要な支援領域は、学力の向上と考えている。そこで必要なのは、学習内容の提供と学習方法の指導である。教材を提供をしているが、それだけでは学力の向上には不十分である。よって、学習方法も指導しなくてはならない。
また、教材はひとりひとりのニーズに合わせたものを提供しなくてはならない。それには学力診断と学習方略診断は必要不可欠であるということで、今回、BEATと共同研究開発を行った。
「学習ナビ」は、まず英数国の学力診断を行い、IRT(項目反応理論)を使って処理をする。それに加えて学習方略診断によって、学習法の手順と達成度を診断する。これらを合わせてアドバイスを行う。
サービスは、2006年11月17日から12月25日まで弊社ポータルサイトの「マナビジョン」で実施。2007年3月1日から3月31日まではYahoo!インターネット検定で有料で公開、2007年3月14日からは会員向けサービスとしてリリースをした。
3.2.「学習ナビ」の概要
松河 秀哉(BEAT 客員助手)
3.2.1.研究の概要と目的
この研究を一言で言うと、「よい」学習方略を学習者に伝達するシステムの開発研究である。
学習者にとって、どうしたらよい学習者なのかが学習者自身にはわかりにくかったり、個別指導には限界がある。そこで、優れた学習者はどのような学習方略をとっているのかを、大量のデータから分析してわかりやすく学習者にフィードバックするシステムの開発が本研究の目的である。
3.2.2.研究背景
「学習方略」は辰野(1997)によって「学習の効果を高めることを目指して意図的に行う心的操作あるいは活動」と定義されている。英語なら知らない単語の意味を前後関係から推測する、国語なら意味のわからない古語は必ず辞書で調べる、数学なら公式は覚えるだけでなく意味も考えるといった行動である。これらは学力向上には重要である。
ところが、「上手な勉強の仕方がわからない」生徒は小学校4年生では33%程度であるが、学年が上がるにつれ上昇し、中学校2年生では75%程度に達し、大変多い。
よい学習方略を伝達することには2つの意味があり、1つは適切な方略をとれていない学習者に対して適切な方略を伝達し、学習方法の改善を促すこと、2つ目は適切な方略が取れていることを自覚していない学習者に対して、適切さの確認を促し自信を持たせることである。
3.2.3.従来の指導方法
従来の方法としては、学習者と教師が1対1で向き合い、学習者の実情に泡あせた方略を指導する認知カウンセリング法、欧米の大学の新入生に対して行われる、履修指導のための質問紙を用いた診断(LASSI、MSLQなど)がある。
しかし、どちらも教師による指導が中心で、大勢の学習者に対して、適切な学習方略を直接フィードバックするには新たなシステムの開発が必要である。
3.2.4.何が適切な学習方略か
では「何が適切な学習方略か」ということを考えると、中高生の学習の効果は、学力試験によって評価されることが多い。試験の点数が全てではないということは重々承知の上ではあるが、現実を考えると、学力試験の得点と結びつきの強い学習方略をフィードバックすべきであると考えた。
3.2.5.適切な学習方略の見つけ方
今回は回帰二進木分析を用いた。データマイニングの一手法であり、どんな学習方略を、どんな順番でとればよいかがわかる。学力と方略の組み合わせを大量に集めて分析をした。対象は2005年のセンター試験受験者(高校3年)約1,300名である。
たとえば、数学に関して「公式の意味を考える」、「得意問題をつくる」、「解答を暗記する」という3つの方略があったと考える。それぞれに対してYESと答えた人とNOと答えた人で平均点を比較すると、最も差があったのが「公式の意味を考える」、次いで「得意問題をつくる」、「解答を暗記する」だったとする。その場合、学習者が最初に行わなくてはならない方略は「公式の意味を考える」ということになる。
では、次に行わなくてはならない方略は「得意問題をつくる」かと言うとそう単純ではない。先に行った方略である「公式の意味を考える」に対してYESと答えた学習者の中で、「得意問題をつくる」と「解答を暗記する」の比較をしなくてはならない。単純な全体の平均だと「得意問題をつくる」の方が平均の差が大きかったが、「公式の意味を考える」ことを実践している集団内で比較してみて、「解答を暗記する」の方が平均の差が大きくなる場合、「解答を暗記する」が次にとるべき最適方略といえる。
つまり、まずは「公式の意味を考える」を実践した上で「解答を暗記する」を実践することによって、最も平均点が高い集団に近づくことができる。学習者はそれぞれの項目にYESとNOで答えることによって、システムがとるべき方略を順番に、すでにできている方略はそのまま続けるようにとフィードバックする。
3.2.6.まとめ
「学習ナビ」のシステムではまず、学習方略の診断行う。先の例ではYESとNOで単純化してあったが、実際のシステムでは7段階で診断する。また質問数は20である。方略の適切性は良い・悪いだけではなく、できている度合いに応じて詳細な解説が提示される。
また、先に述べたように、「公式の意味を考える」ことをしないで「解答を暗記」しても意味がないので、まずは「公式の意味を考える」を実践してから「解答を暗記」をするべきといった、方略の順序の伝達も行う。
3.3.「学習ナビ」の評価
北村 智(BEAT アソシエイツ)
3.3.1.評価の観点
評価の観点は以下の通りである。
- モデルの妥当性の検討
決定木のノードの間に学力差はあったか - 信号機メタファの有効性
赤信号・黄信号が出たユーザは解説をよく読んだか - 一本道メタファの有効性
ユーザは最初に青信号以外が出た学習方略から取り組むべきと考えたか - ユーザの主観的評価
ユーザは「学習ナビ」を好ましく捉えたか。
3.3.2.評価の方法
評価は、モニタによる評価「データ1」と、一般ユーザのデータ「データ2」で行った。
モニタは、事前に学力テストを受けた高校1年生約200名である。モニタには英語のみを対象にして質問紙に回答してもらった。モニタは学力が高い会員ばかりに偏らないように、成績を低群、中群、高群と分けて募集を行った。それぞれの比率は1:3:1である。
一般ユーザは、進研ゼミ高校生向けポータルサイト登録会員で、「学習ナビ」の利用に合わせて学力テストを同時に受験。3教科すべてを利用してもらってから、Web質問紙に回答してもらった。
3.3.3.モデルの妥当性
データ1を利用して、「学習ナビ」で仮定したモデルが、今回の学習者にも当てはまっているかを検討した。その結果、モデルの仮定にあてはまった形で学力に有意差が見られ、モデルの妥当性が示された。
3.3.4.信号機メタファの有効性
「学習ナビ」では、とるべき方略の「できている・できていない」を、信号機の「青・黄・赤」のメタファで表現している。
サーバに残ったログデータを利用し、各学習方略が提示され、次の方略に移行するためのボタンを押すまでの時間を計測した。これはどの程度、学習方略の説明画面の閲覧に時間をかけたかを確認するためである。その結果、できている方略を示す青信号、まあまあできていることを示す黄信号、できていないことを示す赤信号の順に秒数が長くなっていた。このことから、できていない方略ほど長く読んだことになるため、信号機メタファも有効に機能していたのではないかと考えられる。
3.3.5.一本道メタファの有効性
「学習ナビ」では、とるべき学習方略の順序を、一本の道上に先の信号機を並べることによって表現している。
データ1では「まずはじめにやってみなくてはいけない勉強方法はどれだと思いましたか」と自由記述形式で回答を求めた。学習者は、最初に黄または赤信号が出た方略にまず取り組まなくてはならない。よって、それと自由記述がどれだけ一致していたか、について分析者と第三者が独立に判定した(一致率は93.7%であった)。結果としては、半数の49.5%が最初にとるべき方略を正しく認識していた。
3.3.6.ユーザの主観的評価
「学習ナビ」利用後に回答してもらった質問紙調査の結果を基に、「学習ナビ」の利用後の印象を評価した。モニタは英語のみ、一般ユーザは3教科を使った後に回答をしている。
「自分はどのような勉強の方法をとればよいかわかった」という問いに対し、「とても当てはまる・当てはまる」と解答したモニタは約65%であった。逆に「当てはまらない・まったく当てはまらない」と答えたモニタは10%弱と、好意的な結果が出た。
「学習ナビで示された勉強の方法を実際にやってみようと思った」という問いに対し、「とても当てはまる・当てはまる」と解答したモニタは約75%であった。逆に「当てはまらない・まったく当てはまらない」と答えたモニタは5%弱であった。
以上2点に関しては、一般ユーザも同様な結果であり、「学習ナビ」が好意的に捉えられている結果である。
ただし、3教科を使った後に解答した一般ユーザは「学習ナビのアニメーションは長いと思った」という問いに対して、約55%が「とても当てはまる・当てはまる」と解答したため、アニメーションの長さ等に関して改善の必要があると考えている。
3.3.7.まとめと今後の課題
まとめると、「学習ナビ」のエンジンで用いているモデルの仮定は利用者にもよく当てはまっていた。また、信号機での表示は利用者によく理解されており、全体的に好意的に受け止められていたと言える。
今後の改善点としては、取り組む順序を理解できたユーザが49.5%にとどまることと、3教科使うと「アニメーションが長い」と感じるユーザが多い点を改善しなくてはならないと考える。
3.4.「学習ナビ」プロジェクト成果報告まとめ
山内祐平(BEATフェロー/東京大学助教授)
学習者はより自立的であって、学習の動機を持って自ら学んでいくことが重要であるとよく言われる。しかし、具体的にどのようにしたらいいかということに関してサポートが十分でない。よって「学習ナビ」の提案を行った。
「学習ナビ」の方略指導は、一般的なものであるが、より領域特定的なもの、たとえば英語でこのような間違いを起こしやすい、数学でこのような誤りのパターンがあるといったことを取り除くことにも応用できる。このようなケースにも用いたいと考えているが、そのためにはより領域特定的なデータが必要なため、順序として一般的な学習を対象とした研究を行った。このシステムのスキームは、大量の人間の行動パターンと、出力に「望ましい・望ましくない」という価値判断基準があれば用いることができる。例えば、ダイエットの支援なども可能であろう。あらゆることに使えるスキームであると考えている。
BEAT Seminar Report
2010年度開催
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第1回:電子書籍時代の教材:誰が作りどんな形になるのか
2010年5月29日
2009年度開催
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学習環境のソーシャルイノベーション
2010年3月27日 - 第3回:モバイルARが拓くPlace Based Learningの世界
2009年12月5日 - 第2回:日本の教育×オープンイノベーション:
世界に貢献できる人財づくりと教育富国を目指して
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2009年6月6日
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教育工学25年の歴史から考えるデジタル教材の未来
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ー教育における協調フィルタリングの可能性を考えるー
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ー創造的制作活動をアフォードする人工物
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モバイル・ユビキタス技術と学習環境
:BEAT3年間の研究を総括する
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〜Web2.0で健康に?!〜
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学習科学とICTは学びのあり方を変えるか
ー高等教育の変革を事例としてー
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