彼らは新しい物理教室をStudio Physicsとよんでいます。そして、このStudio Physicsを実践、運営、研究するのがTEAL(Technology Enabled Active Learning)プロジェクトです。センベン=リャオ博士は、このプロジェクトの運営・研究を担当するひとりです。本講演では、TEALプロジェクトの全体像、導入されたテクノロジーの紹介、Studio Physicsの学習の実際、その学習効果などについて解説していただきました。
1. 動機−なぜTEALを始めたか
物理学の教育方法として一般的な大型教室での講義は、100年前と現代を比較してもそのスタイルはあまり変わっていない。私が10年間の教員生活を続けてわかったことは、学生のやる気がなく予習をしてこない、知識がどのような意味を持つのかを充分に認識していない、抽象的で複雑な数式を理解できない、物理学の概念の可視化が困難である、出席率が低いということである。
教員は成績が悪いと学生を責めがちではあるが、そもそも授業のフォーマットにも問題がある。物理の講義は大人数で行われ、質問を受ける時間がない、口頭による質問をしても質問を受ける側のTAの能力が不足している、そして実験と講義の内容が必ずしも一致していないといった問題がある。
21世紀の学生として必要な資質は、デジタル・リテラシー、分析能力・問題解決能力、コミュニケーション能力、批判的な眼である。これらを満たすために必要なことは以下にあげられる。
- 様々な学習方法を実現できるツールやリソースの提供(ハードウエアやソフトウエア、ウェブベースのコンポーネント)
- 学生一人一人に個別化された学習環境の提供
- 日々の経験と結びつけたかたちで、概念を学習する機会を設ける
- 学生中心の教室を作ること
また、以下のことを、念頭に置くべきである。
- 教えたからといって、その知識が伝達されたとは限らない。
- 学生が正しい答えを言ったとしても、本当に理解しているとは限らない。
- 学習のパラダイムには構成主義を用いるべきである。教師は概念を教え、学生は概念を再発見しなくてはならない。
以上のような教育の様々な課題に対して、私たちはTEALというプロジェクトを開始した。
TEALとは何か?
「Technology Enabled Active Learning(テクノロジーで可能になる能動的な学習)」
TEALは、講義、口頭試問、実験を統合し、テクノロジー的にもコラボレーション的にも豊かな環境を提供する。
TEALの目的
- 伝統的な講義の形式から離れる
- 技術によって能動的に学ぶ環境を作る
- 概念的な理解と問題解決能力の増強
- ヴィジュアライゼーション能力の増強
- コミュニケーション能力とチームワーク能力の増強
学生に学んで欲しいこと
- 物理学的な現象を数式で表現するだけでなく、グラフィカルに表現できるようにすること
- 概念を暗記するのではなく、理解すること
- 近似、単純化、理想化といった問題解決能力を持つこと
- 概念的・数学的なことのモデルにすること
- 批判的に物事を考えること
2. 教育の方法−アクティビティベースの指導
TEALの概要
- 週に5時間の授業
2つの2時間の講義+金曜日に1時間のワークショップ - 教師と学生の密な相互作用
教授が1人、研究室の講師が1人、大学院生が1人、学部生が2人での教育体制 - 協調的な学習と互いに教え合うこと
学生はグループにまとめられ、グループとしての評価を受ける
また、TEALの教室はとても特徴的である。
- 学生中心の教室
- 13のテーブルと、それぞれに着席する9人の学生(計117人)
- 3人に一台のノートPC
- 教室の中心に位置する、教師用のステーション
- 8枚の投影用スクリーン
- 教室を取り囲むホワイトボード
- 13台のビデオカメラ
- パーソナル・レスポンス・システム(PRS)
デスクトップ実験
物理学はそもそもも実験科学であるが、MITではこれまで実験は軽視されていた。TEALでは実験を中心に扱うため、カリキュラムに13の実験を組み込んだ。最初に理論を講義し、その後、それを確かめるための実験を行う。実験は主に各テーブルで行える簡単な物で構成されているが、教師が大規模な実験を行うこともある。実験を組み込むことによって、通常の授業より活発な学生の行動が認められる。
可視化とシミュレーション
実際の実験を学生に見せた後、3Dアニメーションやアプレットを用いて、見えない磁気や電波などの要素を可視化し再現する。このような可視化は、方程式など抽象的な概念の理解を促すことができ、世界的に評価されている。また可視化したものを見せ合うことにより、学生同士が互いに学び合うことができる。
パーソナル・レスポンス・システム(PRS)
PRSは、学生が授業にどのように参加しているかをモニターするための装置である。教師が出した質問に対して、学生個人がPRSで選択肢を選び回答する。教師は正答率などの情報を見ることができる。成績がよくない場合は次のトピックに進むのを中止するなどの措置がとられる。
PRSの重要性は能動的な学習のプロセスの促進にある。まずは質問に対してPRSで回答をさせる。自分の回答と他学生の回答が異なっていたら、なぜそのような回答なのかディスカッションをさせ、再度PRSを使って回答させる。このようにして、学生同士の相互作用を高める役割を担う。
講義前の質問
実際の講義が始まる前に、シンプルな質問を投げかける。講義開始前にある程度の内容を理解させ、授業時間を最大限活用するためである。形式は自由回答で電子提出、提出期限は講義が始まる午前9時前までとなっている。これは教師にとっては、学生がどのような点で混乱するのかを理解でき、講義の進め方の参考にすることができる。
授業内での問題解決
金曜日には問題解決のセクションがある。ワシントン大学での「Tutorials in Introductory Physics」と似ているものである。ここでは問題解決能力に重点が置かれる。協力的な学習が行われ、努力に応じて成績がつけられる。
3. 評価−TEALと伝統的教育の比較
TEALと伝統的教育の比較調査のため、授業の前後に25問のテストを行った。授業前のテストは各授業の初日に行われ、成績は3レベルに分けられる。授業内でのグループは各レベルの学生が均等になるように形成される。そして、授業後に再度テストを行った。
授業の前後にどれだけ成績が向上したかを評価した結果、TEALの方が伝統的な教育より、学生の成績が向上していることが示された。
どちらの授業がよかったかを口頭で調査した結果、もっとも重要なものは講義と答える学生が一番多いが、次いでテクノロジーが重要であると答えた学生が多かった。
なぜTEALがより効果的なのか。それは、まずは理論を学習し、次いで実際に学習した現象について実験を行う。そして、実際の実験に基づいたバーチャルなシミュレーションを加える。最後に再び理論に戻り、実際の現象とバーチャルな現象を連結させる。このプロセスの結果、授業で一方的に講義するより、TEALの方が効果的な教育方法であるといえる。
4. 課題−TEALの効果的な実現に求められること
TEALの実現には、広大なスペース、高価なマルチメディア機材、より多くのスタッフが必要である。それに加えて、このインタラクション環境を実現するためには教える側にもスキルが求められるため、トレーニングが必要である。この方法には、教員の熱意と学生への積極的なコミットメントが必要である。またITに強くなることも求められる。そして、教員自身が学生にTEALの効果を理解させなければならない。
また学生には、予習をすること、コラボレーションを学ぶこと、問題解決を学ぶこと、実験を行って理論を確認することがどれだけ重要であるかを理解すること、物理学のトピックを理解することはどのような成果を得られるかを理解することが求められる。
5. まとめ
以下にあげる点から、TEALは21世紀の学生を育てるために最適な教育法であると結論づけられる。
- TEALで実現されているような能動的な学習環境から、学生は多くのことを得ることができる
- 授業の前にテストを行うことにより学生のグルーピングを均質なものとし、また弱点の理解もなる
- 学生相互の教え合いは大変価値がある
- パーソナル・レスポンス・システムによって、学生から教員へのフィードバックを即時に行い、講義を学生の理解にあわせた進行にすることができる
- マルチメディア(可視化・アニメーション・アプレット)の利用は、概念的な理解を強く促進する
TEALでもまた、NESTA Futurelabの例と同様に、教師による一方的な知識伝達ではなく、学生が能動的に学習をすることを最大の目的としています。自分で体験し、そしてそれを可視化するといったプロセスは、物理学だけではなく、様々な概念を理解するための方法として今後定着していくのではないかと考えます。また、パーソナル・レスポンス・システムのような教室内でのコミュニーションをテクノロジーで支援する部分に、ケータイ技術を導入する可能性を感じます。
- モバイルする学習環境 Moovl と Savannah
ベン=ウィリアムソン氏 NESTA Futurelab 研究員 - 物理の基礎を協調学習で教える MIT TEAL プロジェクトの挑戦
センベン=リャオ博士 マサチューセッツ工科大学 教育情報センター
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